◆科学コミュニケーション論◆

【科学コミュニケーションとは何だろうか?】

科学コミュニケーションについてはさまざまな説明がされています。もちろん、おおまかには同じことを言っているのですが、これぞ!という明確な定義はありません。それは、個々人の立場や経験が異なることや、それぞれが目指す“科学コミュニケーション”が多様であることの現れです。このような背景を鑑みると、自分としての“科学コミュニケーション”を持つことが大切になります。僕にとっての科学コミュニケーションは「科学に関する話題について、双方向的かつ対等なコミュニケーションを行おうとする理念」です。

ここで留意して頂きたいことがあります。それは、科学コミュニケーションの推進は一方向的な講義や講演会の否定ではない、ということです。科学コミュニケーションは、従来の一方向的な科学啓蒙へのアンチテーゼのような役回りもありますが、それはあくまで一側面です。“双方的かつ対等なコミュニケーション”ではなく、(分かり易い)講義で科学を知りたいという方もたくさんいるでしょう。

【サイエンスカフェ】

サイエンスカフェは科学コミュニケーション活動の典型例です。その起源は、1990年代にヨーロッパで広まった「哲学カフェ」であるといわれています(※)

そもそも科学コミュニケーションが日本で注目され始めたのは、2003年ごろです。科学技術政策側からの指摘を契機に科学コミュニケーションという言葉や理念が日本でも広がり始めました[1]。それを受けて、『平成16年度版 科学技術白書』では、社会と科学者の「双方向的なコミュニケーション」の重要性が説かれました。とりわけ、白書内のコラムで紹介されたサイエンスカフェのインパクトは大きいものでした[2]。それ以降の隆盛は、科学技術振興機構(JST)が提供しているウェブサイト Science Portal内のイベント情報からも垣間見ることができます。

サイエンスカフェはその名の通り、カフェや喫茶店、もしくは図書館などで開催されることが多いです。その理由は、科学の専門家でない人たちが参加しやすい場所であることと、話題提供者である専門家が極力権威的にならない場所であることが挙げられます。運営は大学や科学館がしていたり、個人や有志で行っているものもあります。これらの要素を持つサイエンスカフェは、大学や研究機関の“見える化”の担い手にもなっています。

『平成16年度版 科学技術白書』でも紹介されたヨーロッパを中心に広がったCafe ScientifiqueではPower Pointによるプレゼンテーションが非推奨だそうです。科学者が自分の言葉のみで話すことにより、参加者に対等な立場であることを感じてもらうためです[3]。日本のサイエンスカフェでも例えば、東京で行われているウィークエンド・カフェ・デ・サイエンス(WE Cafe)でも、できるかぎりPower Pointプレゼンテーションを行わない方針で開催されています。

上記では「Power Pointを使わない」例を紹介しましたが、実際は、Power Pointプレゼンテーションを用いたサイエンスカフェが多い印象です(※)。大切なのは、いかに「双方向でかつ対等な科学コミュニケーション」を実現させるか、ということです。「Power Pointを使わない」はその一手法と理解できるでしょう。
※「Power Pointを使わない」サイエンスカフェは発表者・ファシリテーターにはハードルが高くもあります。

【サイエンスカフェでの双方向的かつ対等な対話を求めて】

そもそも「双方向的かつ対等な」コミュニケーションなんて可能なのでしょうか。「きっと、難しい」と僕は思っています。だから、科学コミュニケーションはたくさんの課題を抱えています。でも、粘り強く(気長に)それらの課題に対峙していくことも大切なのかも。。。

サイエンス・カフェでも、〈知識勾配〉の存在は大前提であり、しかも個別科学者の背景には、当該領域の専門家集団、さらには科学全体の専門家集団が控えており、他方で参加する市民は、原則的には一人ひとり個別の独立した人々だ。両者の間には、知識的、権力的、制度的に厳然とした違いがある。
(金森修『科学の危機』集英社 (2015) p200)

“市民との対話に必要なのは、知名度や肩書きではなく、人の意見を聴く姿勢だ。一方的に喋り過ぎない、第一線で研究に携わっている大学院生~若手研究者をお招きすると,参加者との対話がうまくいくことが多い。”
(蓑田裕美「ちょっと変わった下町のトークイベント」サイエンスコミュニケーション Vol.3 No.2 p12-p13 (2014) p13)

“生徒と一緒に授業を聞いていた先生にも、「普段は教授の方に講義を頂くのですが,どうしても難しい内容になってしまいがちでした。この講義は全ての生徒にしっかり届いていたと思います。」「大学院生は生徒と年齢も近いので質問がしやすかったと思う。」などと、大学院生ならではの授業が高く評価されている。”
(中島悠 他「大学院生出張授業プロジェクト(BAP):9年間の継続的活動を通じた分析と展望」科学技術コミュニケーション 21 p59-p75 (2017) p71-p72)